「空気になれれば楽しかろう」
マリコはそう呟いた後
好きなあいつにゆるり溶けてやったり
嫌いなあいつにどろり溶けてやんなかったり
頭の中に現れた何人かの客人を
愛でたり、八つ裂きにしたりしてみた。
高校からの帰宅途中、繁華街に立ち寄り
大通りの片隅にある名も無き段差に腰を下ろし
そんな事を妄想することが
青春という枠組みに入るかどうか
マリコは知らない。
冬、近づき色めき立つ夕刻の街の風景を
頬杖をつき、気怠い表情を浮かべて眺め発せられた
とある女子高生の小さな呟きは
隣に座っている友人1、友人2という
女知人達による
シャカシャカバリバリという
コンビニで手に入れたプラスティック製の袋をまさぐる
何ともありがたくない音によってかき消された。
友1が形式的に質問をする。
「マリコ、何か言った?」
香ばしい油の香りが流れてきた。
マリコはちらりと友人1の方に視線をやった。
都会の真ん中で財宝を発見したかの様な
友人1の笑みを確認すると
小さくかぶりを振り、視線を元の方へと戻した。
友人2は友人1が発見し封印をといたことによって現れた唐揚げを
指先でつまみ、口に運んだ。
友人1はそれに、もうっと笑みを浮かべて応えた。
その後、友人2が急須みたいに口から何度か湯気を出したが
マリコはそれに気付かなかった。
友人2は唐揚げを咀嚼しながらマユに尋ねた。
「これからこの前知り合った男と遊びに行くんだけど、マユも行く?」
マリコは少し間を置いて
「いい。ケツが冷えたから帰る」と言った。
マリコはゆっくり立ち上がり
都市と密着していた部分を2度、はたいた。